元月蝕歌劇団で、function code();やSPEED-iDでもお馴染みの森永理科さんを中心として立ち上げられたPSYCHOSISの演劇、「TSUYAMA30-津山三十人殺し-」を観にザムザ阿佐ヶ谷に行ってきた。
▼Read More「津山三十人殺し」とある通り、横溝正史の『八つ墓村』で知られる凄惨な津山事件がテーマのアングラ劇。しかも音楽はYukinoさんのkrishnablueとSPEED-iDのEUROさんが担当っていうんだから、こりゃ観る前からワクワク。
ザムザに着いたのは開演間際だったので、既に客席はお客さんでいっぱい。出入り口近くの通路前の席に案内された。舞台では目を覆われた女性が二人何やら蠢いていて、劇が始まる前からアングラの香りがむんむんする。この芝居小屋の非日常感ってライヴハウスとはまた違って好きなんだよなあ。
しばらくして客電が落とされ芝居開始。いきなり津山事件のクライマックスである、トイ・ムツオが村人達を殺害していくさまからはじまった。額に懐中電灯を括りつけ、首からライトをぶら下げたムツオが散弾銃を手に怒号を放ちながら俺が座っていた傍から飛び出してきた。ちょっとビックリ。客席の通路を抜け、逃げ惑う女達を追いかけ一人、また一人と殺していく。
不謹慎ではあるけれど、銃を持ったムツオの額に括りつけた懐中電灯と首から下げたライトがスモークの中から舞台や客席を舐めまわすさまは幻想的でゾクゾクする光景だった。
そして舞台はムツオの幼少期へと時を戻し、慕っていた姉の結婚や結核を理由とした徴兵の不合格をきっかけにムツオの心に闇が入り込んでいく様子を史実にそって描いていく。ここでムツオの祖母、イネを白塗りで演ずるのが元万有引力の井内俊一で、コミカルな立ち回りながらも抜群の存在感。
この演劇は月蝕歌劇団の脚本だそうなのだけど、俺は月蝕歌劇団版は未見で、事前情報も完全にシャットアウトしてた。なので、津山事件のムツオの物語と並行して阿部定が登場した時は一瞬頭が混乱。そうか、津山事件は1938年、阿部定事件は1936年だから同時代なんだな。この二つの事件を結びつけるなんて凄い発想だ。
その後もムツオが生み出した虚構の存在の三人組や、未来から来た帝国陸軍の将校らといった、やや突飛な登場人物達が絡みつつ劇は進んでいく。そして最後は時代、環境といったムツオを取り巻く世界への観念的な悲痛な心の叫びで幕を閉じた。
現実の津山事件も遺書から垣間見られる素直さ等、都井睦雄に対する同情の余地を感ずる部分もあり、最後の独白は何か胸にぐっとくるものがあった。破滅的な結末が待ち受けていると分かってはいても、誰もが自身を取り巻く環境を打破できるわけではないものなあ、と妙にしんみり。もっと過激なグランギニョルを想像していたけど、いい意味で色々と裏切ってくる兇魔劇だった。