ドイツ表現主義の傑作『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)の2度目のリメイクがようやく日本でも公開になったので観に行ってきた。『ウィッチ』(2015)の出来栄えが素晴らしかったロバート・エガース監督だけに期待は十分。

(以下、ネタバレ全開なので未見の方は閲覧を避けてください)
▼Read Moreいやー、映像は本当に綺麗だったし、本格派のゴシック・ホラーをこれだけ真面目に作ってくれたのは嬉しい限りだった!ただ、ただね。全編通じて何かイマイチワクワクしなかった。俺は怪奇映画を見るとニヤニヤしちゃうんだけど、そういうワクワクというか、トキメキが殆ど感じられなかった。
唯一ニヤニヤしたのは、オルロック伯爵の城へと向かうトーマスが橋を渡って十字路へと向かうと、馬車がやってくるシーン。言わずもがなだけど、橋は生者の世界と死者の世界を繋ぐ象徴であり、十字路は悪魔との契約の場。つまり、橋を渡ることでトーマスはノスフェラトゥの死者の世界へと足を踏み入れ、馬車に乗り込むことでオルロック伯爵との契約を結ぶ、ということを暗示するこの演出はとても良かった。
でも、その後出てきたオルロック伯爵のデザインがね。。。暗くて殆ど外見が見えないシーンが続くものの、明らかにマックス・シュレックのそれとは異なっている。2度目のリメイクだからある程度は仕方ないかなあ、とは思いつつも、やっぱりノスフェラトゥはあの外見が良かったなあ。それと、オルロック伯爵が棺でよいしょ、ってしなやかに立ち上がるのもいやんだった(笑)やっぱ、ノスフェラトゥは棺から硬直したまま跳ね上がらないと。硬直したまま跳ね上がるのは、死後硬直を連想させる演出で、ノスフェラトゥが死者であることを外見の特殊メイクとかより何よりも雄弁に物語っていると思うんだよね。
その分、エレンを演じたリリー=ローズ・デップのブッチギリ演技は凄かった。『エクソシスト』(1973)のリンダ・ブレアかよ!ってレベルで、ムルナウやヘルツォークが描いた「夢遊病」なんて生易しい次元じゃない。あまりにぶっ壊れている演技が凄いものだから、観ていてちょっと辛くなった。
勿論、リメイクなんだからオリジナルと違ってもいいんだけど、何と言うか、全体を通じて肝心の怪奇幻想味が薄かった気がする。正統派でド真面目にやっているのに、優等生過ぎて怪奇幻想味が薄いのと、オルロック伯爵がイメージとかなり違ったからかなあ?とにかくトキメキが足らなかった。ドドーン!って大きな音でビックリさせる昨今流行りの演出も「あー、やっちゃったかー」って感じで不要な気がしたし、後半での唐突な性的要素の介入も蛇足に感じた。
ロバート・エガースだから、そんなことはないと思うんだけど、リメイクの重圧に負けたのか、期待が大きすぎただけだったのか、ちょっと残念。良ければ何度か劇場に足を運ぼうと思っていたんだけど、劇場で観るのはもういいかな。