観なくちゃ観なくちゃ、と思いながらもずっと観ていなかった『雨月物語』をAmazon Prime Videoでようやく観た。
▼Read Moreいやあ、凄かった。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した溝口健二監督の代表作だと知ってはいたけど、ここまで凄いとは思わなかった。モノクロ映像の幽玄的な美しさや、ワンシーン・ワンショットのカメラワークの妙がヌーヴェルヴァーグに大きな影響を与えたというのも強く納得。そして、京マチ子の全身から漂う、この世ならざる者の存在感!
実は俺がこの映画を敬遠していた最大の理由は、京マチ子の殿上眉のポスターやジャケットがどうにも滑稽に見えたからなんだけど、いや、全然そんなことはなかった。初登場シーンから既に異界のオーラバリバリなのに、屋敷で源十郎を誘惑する際は妖艶、いや、下手をすると可愛らしくすら見える。そして源十郎の裏切りを知った時の形相は再び異形の存在感。スゴイ。
ストーリーは『雨月物語』の「浅茅が宿」と「蛇性の婬」のエピソードを元に一つの物語として再構築されているので、話が動き出すまでは「あれ?雨月物語ってこんなだっけ?」感はちょっとある。そして、話が動き出してからも描かれるのは人間の、というよりも男の欲望の醜さと愚かさ。いつの時代も男は愚かなのだなあと身に染みる。
一方で、時代背景的な部分や溝口健二の作風な部分もあるのだけど、極めて男性目線の独善的なファンタジーも強く感じた。妻子を捨て若狭との恋に走った源十郎を、死してもなお優しく迎え入れる妻の宮木。藤兵衛が武勲をあげることに夢中となるあまり、野武士達に犯され遊女へと身を持ち崩したにも関わらず、藤兵衛とやりなおす妻の阿浜。この辺の描き方は現代ではありえないなあ、という感じ。多分、現代だったら源十郎は宮木の霊に呪い殺されて無惨な屍を晒すことになるだろうし、藤兵衛は阿浜に残酷な殺され方をすると思う。
ただ、溝口健二監督は人格的な問題のエピソードが多々ある監督なので、自身の幼稚な願望を反映したファンタジーだと分かった上で自嘲的な意味も含めそういう描き方をしたのかな、と思ったりもした。
とにかくまあ、凄い映画だった。4Kデジタル復元版のBlu-ray買わなきゃ。